「じいじ、本読んで~!」
無邪気に、ソファーの後ろにある赤い表紙の本を抜きそれを目の前に差し出す孫娘。
それは、お前にはまだ早い魔術書だよ。
儂はそっと本を孫の小さな手から元の場所へ戻し、代わりに昔読み古した簡単な魔法の書かれた魔術書を手に取った。
「僕にもきかせてっ!」
足元に抱きついてくる幼い体。
じゃあ、皆で読もうか。
そう言ってソファーに腰をかけ両肩に乗る孫に視線を向け、本を開いて読み聞かせる。
時計の揺れ動く針の音と、孫の笑い声が響く部屋のなんと暖かいことか。
この一時が、永遠に続けばいいのに。
そう思いながら魔術書を読んでいたその時だった。
部屋が揺れ、爆発音が聞こえた。
「なに………なになに?」
「怖いよ………」
なに、きっとベリアルとルシファーあたりが喧嘩でもしてるんだろう。
あやつらのことだ、きっとそうに違いない。
少し儂が叱って来るよ、すぐ戻る。
そう孫に言い聞かせ、ガイバは瞬間移動魔法を使い外に出ることにした。
「………じいじ、なにかあったら呼んでね?」
「呼んでね?」
大丈夫だよ。と振り返って孫達に微笑み魔方陣の中へ入り移動した。
爆発の起こった場所は、城の玄関付近らしい。
城下町には、魔王達の無惨な姿が公開されていた。
「……ガハッ……」
銀の巨大な十字架に縛られ、胸には銀の短剣が十本、深く突き刺されたドラキュラ。その右隣には一際巨大な十字架に鎖で縛られ、角を折られたケンタウロスの姿があった。
ケンタウロス[…こんな…オデの…力で…こんな…]
更にドラキュラの左隣には、無言で首を短剣に刺され息も絶え絶えのダークリザードマンが居た。
ー彼らは、自身の強さを見せつける為の見せしめにされたのだ。
レクス[魔術で聖銀を巨大化させ封印してやったが…さて…あそこだな城は。]
全身に魔力を回し、空中浮遊させる。
その様子を見た翼を持った魔族は一斉にレクスへ襲いかかる。
[いかせるかぁ!]
[おっかあと妹のカタキー!!]
[こちとら息子を殺されてんだァ!失うモンはネェ!]
各々の恨みを込め、力いっぱいに武器を当てる。しかし、無慈悲にもその攻撃は跳ね返され自分の身を傷つけていく。
レクス[…阿呆…魔族である時点でこのオレに勝とうと思うな。]
そう吐き捨てた瞬間だった。
ズダァン!
暗黒の弾丸が男の体を横切ったのは。
レクス[…誰だ…?もはや王は居まい?]
[悪魔は…復讐を忘れねェ……ハハハハ…]
角を生やし、口を片方だけ耳まで裂いた片腕の悪魔。
ベリアルだ。
レクス[…しぶとい…ッ!]
男はすぐに短剣を構えようとした、がそれには及ばず首に悪魔の腕が掴みかかっていた。
ベリアル[…ルシ、ベルの分…たっぷりと仕返してやるッ!!!この地獄に片方突っ込んだ手でなァ!!]
口から光線を吐き、片腕のあった方に向ける。すると、魔力によって練り上げられ燃え上がり腕の形
を成した。
レクス[…ッ!くっ…どいぞ…オレに…よって…殺されるべき…だったな…!?]
わずかにある酸素をひりだし、口を開く男。
それを聞き、ベリアルは嗤う。
ベリアル[フハハハ……どうした?いつもみたいにやってみろよ?ほら…ほらほらぁ!!]
ドカッ!
ドカッ!
ボゴン!
怒りを燃え上がる腕に込め、思い切り殴る、殴る、殴る。
何度も。
ベリアル[…こんだけじゃ足りねェなァ!!]
レクス[…ふっ…負け犬が食い下がるか…かっ…ははは…!]
首を絞められながらも、なお煽る。
だが、ベリアルはそれを聞きまた嗤いで返す。
ベリアル[ハハハハ…これで済むと思うか?…俺様は、80の軍団を持ってる…お前の国にけしかけてやったらどうなるかなァ?…それに、戦車だって持ってる…お前は、俺様に喧嘩売った時点で負けてんだよォ!]
燃え上がる腕でレクスの頭を握りつぶさんとする力で掴み、城の屋根に向かって急降下した。
ヒュゴウウウ!!!
レクス[…ッ自惚れるなッ!悪魔の王!]
全身に光の力を放出する。
煙をあげて焦げていくベリアルの体。
しかし、全くものともせず掴んだ腕の力を緩めない。
ベリアル[…食らいやがれ!!消えろ!潰れろォォ!!]
まもなく、屋根が背後に迫る。
ズガァァン!!
屋根が崩壊し、地面にめり込む。
ベリアル[…はぁ、はぁ…くたばり…やがれ…はぁ…ルシとベルは病院で寝てるかな…]
片腕は既に無くなり、燃え尽きた。
またしても、一本だけの腕となる。
だが、そんな事はどうだってよかった。
仲間の仇を取れた、これで部下が無駄に死んでいくことも無い。
犠牲者の中には、ベリアルの軍団の部下と、その家族が居たのだ。
ベリアル[…ははっ…あーあ、また…ナメられるな…あいつらの為に…こんなことした、だなんて…]
ドサッ
力無くいい終えると、ベリアルはその場に倒れこんだ。
[…オレがこの程度で殺られると?…勘違いも甚だしいわ!]
バコン!
めり込んだ地面から拳が突き出され、体を這い上がらせる。
レクス[…ここまで追い詰めるとは…いいかよく聞け大悪魔…お前は確かに強い、だが悪かったな相手はオレ。…鍛え上げられた熟練の戦士とて、お前を相手取れば死んでいただろう。]
ベリアル[…ッ!野郎…うぐっ!]
無理をした体は動けるはずなく、倒れたまま睨み付ける事しかできなかった。
レクス[…貴様には敬意を表し、見せしめにはせずこの場で消滅させてやる…故郷に伝えておこう。貴様だけは強かった、と。]
男は一言言い、手のひらに魔力を溜め、攻撃魔法の体勢を整える。
レクス[…魔王ベリアルよ、永遠なれ。]
死を覚悟した瞬間だった。
どこからともなく、ハエの大群が翔んできた。
レクス[!?なんだこのハエはッ!]
ハエの大群はベリアルの体を包み込むと、その場で散り散りになり何処かへと姿を消した。
レクス[…チィ…!!]
[何事かね、人の城で舌打ちをするとは。]
目の前に魔方陣と共に現れた角の生えたガタイの良いマントを羽織った筋肉質な老人。
レクス[…問おう、貴様も王か?]
その言葉を聞き、老人は穏やかに答えた。
[元、だがね。]
レクス[…ならば、潔く時代と共に消えよ化石!!]
ダーカーズキラーシャイニング
レクス[闇滅せし光ッ!]
再び魔力を腕に込め、飛ばした。
腕から放たれる閃光は、確実に老人に命中した。
…が、老人はものともせず片腕で暗黒の壁を張り、涼しい顔をしている。
レクス[!?何!?オレの力を受けて…!!?]
驚愕の声を思わずあげるレクス。
挙げ句バリアは閃光そのものを包み込み、球の形を取った。
[…そら。]
その球を老人が投げると、一瞬の静寂の後、凄まじい爆発が起こった。
ボガアアアア!!
レクス[…なに…]
目の前での爆発に目を疑うレクス。それを見て笑む老人。
レクス[…貴様、名はなんという?]
老人は、指を鳴らし自分の体を暗黒のオーラに包む。
すると、老人は若々しくも荘厳な雰囲気をまとう男の姿へと変化した。
[儂の名はガイバ・テネブリス…先々代魔王だ…。]
ガイバ[…城の修理代は、体で払ってもらうこととしようか。]
ガイバはため息まじりに言葉を放つと、指先から暗黒の弾丸を出し、それをどんどんと膨張させた。
その大きさは、3mあるガイバ自身の体がすっぽりと入る程だった。
レクス[…粋がるな…オレには敵わん!]
短剣を数本取り出し、それを魔力を込めて投げる。
しかしそれらはガイバの身を包む暗黒のオーラによって無力化された。
銀の刃が、一瞬にして腐り溶け、落ちたのだ。
レクス[…なに……]
ガイバ[…消えよ、人の子よ。]
指を降ると、凄まじい轟音と共にエネルギーの塊がこちらへ向かってきた。
レクス[……オレが……負けるのか……?]
圧倒的質量を前に、戦意を喪失させる。
レクス[…オレは……オレは……!!]
その塊が数歩、先といったところで走馬灯の様に過去の記憶が甦って来る。
オレは、何故ここまできた?
何故、ここまでの残虐な行為をしてきた?
…名誉の怪物退治、いつもの事だ。
………いつもの事なら、必ず逆転させてやる。
…………オレこそが、英雄だ。
体全体に魔力を回し、光を最大限に溜める。
レクス[うおおおおおお!!!]
レクス[……負けるかァ!]
ー誇りと、意地の闘いの火蓋が切って落とされるー
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