抱擁を交わしあう、人外二体を前に、快は微笑んでいた。
「良かった、ユンガさんも、キマイラさんも――家族に会えて」
その台詞にあるのは、安堵の吐息。
「にしてもこれから、どうするおつもりですか? ユンガ様も、キマイラ様も」
アムドゥシアスが二体に話しかけると、ユンガは憎々し気に語る。
拳に、稲妻を纏わせて。
「決まっているだろう、後はジェネルズ――奴を葬る」
キマイラも、それに応えて唸った。
「ジェネルズ………そうか、奴はジェネルズと言ったか、忌々しい………」
快は、キマイラに近づく。
「あの施設に捕らえられていたみたいですが、何故、捕まっていたのですか?」
キマイラは、目を丸くしながら答える。
「? あ、あぁ。……ジェネルズは、我を滅ぼし、全種族の進化への布石とすると言っていたな……それは無謀として終えたわけだが」
敗北を喫したという告白にも関わらず、キマイラの笑みは不敵なものであった。
その笑みに対して、キマイラの隣でユンガは憂いに顔を曇らせる。
「キマイラ、あまり無茶しな……するな」
咳払いは、でかかった言葉を遮った。
「何、お前を残して我は死なん。だが――ふと気になったことがある」
キマイラは、怪訝な顔を浮かべ、快の顎を撫でる。
快は、ただ伸ばされた手に触れていた。
「お前、古代魔界語が堪能ではないか。どこで習った? 今どき学ぶとは考え辛いが」
突然の質問。
その問いは、快にとってまるで理解不能だった。
しかし、その“答え”は――すぐに知る事となる。
「何いってるんですか、僕は普通に――」
「快、さっきから、こいつらと話せてるのか?」
再び起こった頭痛と、棕の声によって。
「いたっ………そうだけど?」
片頭痛にも似た感覚は、先天鏡の役割を快に告げていた。
(なるほど、自動で言葉が双方の使った言葉に翻訳されるのか)
先天鏡の機能に、驚いていると、快は周りを見渡す。
ある影が、いないことに気付いて。
「グリードが、またいなくなってる………!?」
「まじかよ! あいつほんとどこほっつきあるいてんだ!?」
棕と快が周りを見ていた時。
遠方から、爆発音が鳴り響いた。
爆発音の方向は、森の正面奥――街がある方向。
キマイラとユンガは同時に身構えると、やがて、きのこ雲が上空に浮かび上がった。
「まさか、ジェネルズ………!? だとしたらグリードが向かったのは!」
ユンガが言うと、棕は頷く。
「ぐずついてる場合じゃあないっしょ、行くよ!」
各自が正面を突っ切り走ると、快は自身の指輪を覗きだした。
その宝石に映るのは、自身の――変わり果てた姿。
と、同時に、氷の戦友の姿が重なる。
倒すべき、仇敵の――非道なる所業の数々も。
「アイネス、君の力が僕を生かしてくれている。氷は、自分が溶けるのを許さない………君だってそうだったろう」
快が、呟きと共に宝石を取り換えようとした瞬間。
ダーカーズデビルノコンは、風のジェダイトと炎のロードナイトを吸い込んでいく。
すると、快の身は一瞬、氷の膜に包まれていった。
幻覚かと思わせる事象を目の当たりにし、快は驚きの声をあげる。
が、声を上げる間もなく、次なる映像が飛び込んできた。
「うあっ………!?」
その映像は、かつて――ダーカーズデビルノコンの鎧に包まれた時と同じものだった。
全身が焼け焦げる程の黒き灼熱が、自分の身を焦がし。
混沌という言葉を具現化したかのような、光よりも鮮明に、闇より暗い“あり得るはずの無い”風景が広がる。
(――またこの感覚!! だけど――――僕は、生きなければならない理由がある! 倒すべき敵に、届きそうなところに居るんだ!)
歯を食いしばり、形容し難き重圧を前に、快は抗った。
足を震わせ、腕を振るわせ、精神を――奮わせて。
(僕は、絶対に生き延びるんだッ!!)
少年の、決死の叫び。
それは、苦痛を与え続けていた印と灼熱を、皮膚と共に溶かし、指輪の宝石たちが融合を果たし――。
一つの、荘厳な鎧の形へと変わって行った。
隙間から蒸気を発し、青緑の表面を黒炎と白炎に燃やす――それは、神話に語られる英雄神すら稚拙の極みとさせる造形をし。
その手に握られたのは、双剣の片割れ――髑髏の剣。
力を得た、生を渇望した少年は叫んだ。
あがき、もがいて。
もはや、彼を止める者は――この先に待つ“討つべき者”しか居らず。
神の如き鎧の、否、神すら超えた鎧は、今決着を付けんとしていた――。
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