快はゲームセンターを出て、印章封印札を取り出す。
ゲームセンターを出ると、辺りは夕焼け空に染まっていた。
「ソロム、ユンガさん、大丈夫ですか?」
印章封印札に向かって話しかけるが、相も変わらず反応は無かった。
(流石におかしい、あの無敵のソロムさんすら応答がないなんて……………)
快が思考していた直後。
「がっ――!?」
快の、全身を衝撃が駆け巡る。
「快、どうしたの!」
「うおい!」
アイネスと棕が快の周りを囲むと、快の視界はぐらぐらと揺れだす。
吸い込む酸素は薄く、突如快の片腕は震えながら力を失っていった。
(この感じ……………やばい! ソロムの魔術が切れてき――たか?!)
心臓が跳ねる様に、動悸を放つ。
抗いようのない感覚と共に、落ちかける意識を辛うじて保つ。
快が力み、足を踏みしめると全身を”痣”が駆け巡り、色濃くなっていった。
(こんなところで、死ねるか…………まだ、何にも解決できてないのに)
「まじかよ、大丈夫か?!」
棕は快の体を抱え、額に手をやった。
その額は、熱を帯びていた。
「熱っ………嘘だろ、さっきまであんなに元気だったのに?!」
棕は快の体を揺さぶるが、快はただ喘ぎ、もがく事しかできず。
「大丈夫、しばらくしたら治る…………はず」
快は棕の腕から出て、立ち上がった。
街中を、頭を抑えながら歩く快を気遣うように、歩く速度を遅くする一行。
快は後ろを振り返り、ついてくる仲間達に目を合わせ一言言った。
「ごめん、僕の為に」
「全然大丈夫」
「無理させてなんかあったら、大変だしな」
そう返す二人に、快は胸を撫でおろした。
一行が歩道を歩いていると、長くなり響くクラクションの音に気が付く。
音の鳴る、右側を振り向くと車が長蛇の列を作っていた。
「人が苦しんでる時に、タイミング悪いな」
棕はぽつりとつぶやいた。
「いいよ、仕方ない。にしてもこの列、一体どこから?」
快が周辺を見渡すと、道路は車で覆いつくされておりもはやどこからどこまでが最期尾なのか判断が付かないほど詰まっていた。
一行が無視してまっすぐ、街の外れへ向かおうとした時だった。
「キャア!! どろぼう!!」
女性の声が、遠くから聞こえてきたのは。
快が声の聞こえた方角を向くと、車の列を挟んだ向こう側の歩道で、男がカバンを持って走り去っていくのが見えた。
「酷いね、ここの治安」
アイネスが快に顔を見合わせると、快は指輪の宝石を取り換えすぐ念じた。
(間に合え、間に合え!)
快が渋滞の中へ念じながら飛び込んでいくと、鎧は足元から装着されていき――快が軽く跳ねると体は宙を舞った。
快は瞬時に車の天井を踏み台にしていき、棕とアイネスを置いて向こう側の歩道へ走って行く。
兜から見える快の視界は、泥棒を掴んで離さなかった。
(逃がすか!)
快は車の列から泥棒へ向かって飛び上がり、泥棒の服の裾を鷲掴みにした。
「ひいっ、なんだこのコスプレ野郎!」
快が泥棒の体を持ち上げ、揺らすと泥棒はカバンを手から離す。
「しまった!」
泥棒がカバンを落とした先は、快の足元。
快はカバンの前に足を置き、泥棒の顔を睨むと泥棒はすっかり抵抗する意志を失っていった。
「これ以上、不快な何かをしてくれるな」
言い放つと、快はそっと泥棒を地面に足を置かせた。
泥棒は、地面に足が着いた拍子に、尻もちをつくと、逃げる様にその場所から去っていく。
(さて、一時的にではあるけどこれで幾分か楽になったな)
快は足元のカバンを持ち、後ろを振り向いて数メートル先に居る、カバンの持ち主の女性へ歩み寄っていった。
快が女性を前にして、鎧を解除しカバンを手渡すと、驚いたようなそぶりを見せながらもカバンを受け取る。
「ぼくくん、ありがと……………ね」
「いえいえ」
笑みを浮かべ、快が軽く頷いた後、横断歩道の見える方へ足を延ばそうとすると瞬間、再び苦痛が快の体を蝕む。
「大丈夫?」
「だいじょ――」
女性と言葉を交わそうとした刹那、快の視界は暗闇に沈み――倒れた。
「「快!」」
その様子を見ていた一行は、横断歩道を急いで走り快の元へ集まっていく。
「ちょ、まじで大丈夫かよ……………今日はすこぶる調子悪いみたいだな……………」
棕が言うと、女性は反応を示す。
「あの、どうしましょう………」
女性がたじろいでいると、介抱している棕に代わってアイネスが返す。
「大丈夫、ちょっと発作がひどいだけですから」
女性は、何かを一瞬迷いながらもただ、快の前から消える他に無かった。
「あがっ……………ぐああっ……………」
全身に、より深く――浮かび上がってくる痣。
それは、まるで水をせき止めていたダムが決壊したかのようにどんどんと――快の全身の肌を侵しつくしていく。
(体がいう事を聞かない、しかもだんだん…………頭が痛くなってきた)
快が瞼を開けると――若干の赤色を帯びていた目から、血が噴き出す。
「クソ! どうしようもないのかよ…………!」
棕が歯を食いしばりながら言った直後―――渋滞の先から数発の銃声が鳴った。
快は、無理矢理体を起こし銃声の先を探る。
「なんの………音だ?」
「快、まじで無理すんなって」
片目を抑えながら、発砲音の響いた方角へ、道なりに進行していくと――そこには広大な交差点があった。
その交差点の中心にいるのは――銀髪の長身の男。
男の周りは、無数の車で囲まれており渋滞の原因となっていることは明白だった。
男の正面には警察官が三人立っていた。
「こんな道路の真ん中で、迷惑になるとは思わないのか! どうやって手錠を壊したかは知らないが、これ以上話を無視し続けるなら、撃つぞ!」
警官が怒鳴るが、男は気にも止めない様子で瞳を動かしている。
そして――男の視線は、快に合った。
視線が合った瞬間、快に壮絶な吐き気を催す程の嫌悪感を抱かせた。
「見つけたぞ、”獲物”だ」
男は警官を無視し、歩道の方へ向かう。
「おい、待ちなさい!」
警官の威嚇射撃にすら、男は動じずひたすらに快へ近づいていく。
「あいつ、やばいんじゃないか……………!」
棕は、男の姿を見て、後ろを向くと――棕の後ろにいたアイネスは震えていた。
「ああ……………あいつは!」
アイネスは、男が快からから約二メートルほどの距離によると震える両手を構え、氷の霧を展開する。
「貴様はたしか――喰いそびれか」
「近づくな、化け物! ”銀髪の怪物”!!」
「なに……………お前が噂の!?」
銀色の長髪をなびかせ、ゆっくりと笑みをたたえて一行に近づいていく”銀髪の怪物”。
快は、血に濡れる片目を抑えながら銀髪の怪物をまじまじと見つめる。
(こいつが、皆を……………僕が、アイネスがこんな体になったのも…………)
刹那。
快の中で、何かが吹っ切れたかのように――指輪を構えた。
「ほぉ、抵抗の手段は奴から与えられているようだな」
銀髪の怪物が、腕を組みながら言い放つと快は、歯を食いしばりながら睨む――――。
「なぁ、この四十年。どうだった?」
「なんだ」
「日常を、奪っていくのは楽しかったか……………? 信仰されて、崇め奉られ、有頂天になってるんじゃないのか?」
快の指輪に装填されたのは――炎のロードナイトと呼ばれる鉱石。
快は、指輪にこれまで以上に無い程強く――強く念じた。
「生憎と、全世界の都合など考えていないのでな。――ただ、完全復活の為の礎となってもらっただけだ。未来ある者達の力を借りてな」
「そうか、じゃあ、僕もお前の都合は知らないな!!」
炎のロードナイトが、快の額から滴り落ちる血液に付着し、鈍い光を放つと―快の体を紅蓮の炎が包み込む。
霧は、水蒸気へと消え――周辺に立ち並ぶ車とビルのガラスはどろどろと溶け出していった。
「元凶、到来って訳だな!」
棕はそれに呼応するかのように、アムドゥシアスを召喚し衣装とギターを装備する。
「人間どもが束になったところで、魔族や天使が来たところでワシに敵う筈がないだろう」
戦闘態勢に入る、面々に対して銀髪の怪物は――余裕を持った様子で鼻で笑っていた。
炎から出ると、快の体は紅の鎧を纏った。
右腕には、炎の揺らめきの様な形状の剣が握られている。
「来い、遊んでやろう」
怪物が指を振ると快は突進した。
懐に入り込むと、快は感情のままに剣を振り回す。
剣の軌道からは、白い炎がうねりをあげて放たれた。
怪物がそれを片手でいなしていくと、音の衝撃が怪物を襲う。
「こっちも忘れてくれんな!」
音撃と、剣撃の相乗攻撃を受け、怪物の表情はだんだんと険しいものとなっていった。
街の人々や車は、その戦いを見て逃げ出していた。
もはや、全力の技を以て目の前の敵を穿つ他に非ず。
「ふん、魔術と剣術を合わせたところでこのワシを出し抜けると思うな」
「覚えておくが良い――我が名をその体に。我が名は、ジェネルズ。――新たなる”世界”の創造主の名だ」
ジェネルズは名乗りながら光を放つと、みるみる周囲は包まれていき、あらゆる建造物を一行の視界から消滅させていった。
それぞれの生を賭けた、約三分間の戦いが今始まらんとしていた―――。
ジェネルズ 物理力 ? 肉体 ? 知識 ? 知恵 ? 瞬発力 ? 魔力 ? 再生力 ? 総合脅威度 ?
爵位 不明
階級 不明
種族 不明
正体 銀髪の怪物と呼ばれる、四十年前の大災害の原因であり蛸の触手型の痣を付け、少年少女の寿命を喰らっていた張本人。
容姿がソロムと非常に似ており、彼とは何らかの因縁があるようだが……………?
また、強力な魔神の一体であるルシファーを喰らっている為、凄まじい脅威度を誇っている。
なお、未だ不完全体である。
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