不服そうに、互いから目を背ける階級の高い天使が二人。
天界の酒場で、互いに離れた席で酒を飲むルシファーとサタナエル。
ルシファーは、酒場のテーブル席でミカエルの隣に座り談笑しつつ酒を交わしていた。
「るしふぁーさまぁ、わらしもぉのめましぇんゆぉ~」
「ええ、まだ天界葡萄酒を三本、シャンパンを五本開けただけじゃあないか」
ルシファーは昨晩起こった出来事を記憶から酒で流してしまいたい様子でいた。
酒に酔いつぶれかけているミカエルに、ルシファーはあえて寂し気な、甘い声で耳打ちする。
「私一人で、飲ませないでくれよ?」
「ほひゃああああっ!」
ただでさえ真っ赤だったミカエルの顔が、ペンキを被ったかの様にさらに真っ赤になった。
その様を肴に、ルシファーは笑ってワイングラスをくゆらせ口に運んでいった。
「ミカエルと飲むと楽しいね、ふふっ」
「そのご尊顔と声で言うのはやめてくらひゃい……もう色欲の悪魔もきっと土下座するレベルなんですよそれはぁ……」
顔を隠しながら、慌てるミカエルは発言とは裏腹にどこか幸せそうな声色になっていた。
(……神への不満、己の処遇への不満か)
ふと、サタナエルの言っていた台詞が脳裏によぎる。
(思えば、あいつは私の次に生まれ、熾天使より優れた天使でありながら任されているのに……目立った仕事は無い)
(だが、如何なる雑用でも彼は続けてきた……にもかかわらず天界神様は彼への態度を変えない。だから自分が態度を、その身で反映させる他なかったのだろうか)
ルシファーは思考を巡らせる。
巡り得た答えは、友にして兄弟ともいえる存在への哀れみの言葉ばかりだった。
「……ミカエル、ちょっと向こうのサタナエルに話しかけてくる。良いかな」
ルシファーはミカエルに声をかけた時には、既に潰れた様子で目を回していた。
「ふぇぇ……好きにしてくらしゃい……」
「では好きにさせてもらうよ」
ルシファーは席を離れ、サタナエルの居るカウンター席の隣に座った。
「……酒の席なんだ、腹を割って話そうじゃないか。サタナエル」
ルシファーの言葉に、サタナエルは意外にも静かに反応した。
「……お前のそんな優等生面も、せめてここじゃ見たくなかったぜ」
サタナエルは、瓶を片手に虚ろ気に顎をカウンターに着けていた。
「なぁ、私のどこが気に食わない? なんだかんだ言いながら、大事の時には一緒だったろ」
投げかけたのは、他意の無い純粋な疑問だった。
「……皆に必要とされ、ひとたび歩けば天界神に目をかけられ呼ばれ、天使からは誇大評価すらされるほどのお前が、憎ったらしいんだよ」
「対して俺は、熾天使達にすら存在を認識されず、やってることといやあの地上界の動物の数の記録の提出。嫌になるぜ」
サタナエルは、長い溜息をつき、瓶の中身を一気に飲み干す。
「もし、ここが魔界なら……お前をくびり殺してる事だろうよ」
瓶を握り、瓶を破裂させサタナエルは静かに怒りを見せつけた。
「……俺様が!!! 最強なんだよ!! 頂点なんだよ! 貴様さえ居なきゃなあ!!」
ルシファーの前で、大口を開けて激昂するサタナエル。
そんなサタナエルを前に、ルシファーは冷静に口から言葉を発する。
「……その傲慢さ、やがて身を亡ぼすぞ」
「はっ! 傲慢知己なのはどっちなんだろうな」
対話を試みたが、互いに溝は深まるばかりだった。
しばらく、沈黙が続き……時間にして一時間が過ぎた頃ようやくサタナエルが口を開いた。
「……なぁ、なんでお前があの人間なぞに頭下げなきゃなんねぇんだ?」
「……それは、わからないが天界神の意志の__……」
ルシファーが言いかけた瞬間、サタナエルはカウンターの台を叩いた。
「いい加減にしろ! そこにお前の意思はあんのかって聞いてんだ! ……思考を停止してまで、何故俺らが従わなきゃならねぇんだ!」
叫ばれた言の葉には、サタナエルの本音が込められていた。
「意思なんて、あるわけないだろう」
「なんで、こうもどいつもこいつも……はぁ」
やるせなさそうに呟くと、サタナエルは懐から何かの果実を取り出した。
「!! お前それは天界の果実じゃ!!」
ルシファーは取り上げようとしたが、サタナエルはその実に噛り付いていた。
「そうだ、だがばれなきゃいいんだよ」
果実を食べながら、ルシファーを睨む。
「そんなもの食べて、身体に異変は無いのか!?」
「異変は無いな、ちょっと頭がすっきりして、次にぼーっとして__……後で苦しくなって魔力と身体能力が強化される以外は」
天界の果実の効能は、誰も知らずに居た。
食べた者が見られなかったからである。
「これでも食ってないと、俺は正気で居られないね。あとは無茶苦茶な修行で体にムチ打ってないとな」
ため息と甘い果実の匂いには、絶望が混じっていた。
「じゃあ、俺はこれで。楽しかったぜ、女顔の優等生さんよ」
皮肉を言い、足を震わせながら、サタナエルは酒場から姿を消す。
ルシファーはただ、その後姿を無言で見送る他無かった。
「……さて、そろそろ行かなくては」
ルシファーは、酒場を後にする。
ミカエルと、ほんの少しのグラスに注がれた赤いそれを残して。
ルシファーが向かったのは、天界神の玉座の間だった。
「おお、ルシファーや。……今日は生き物の一部を地上界へ落とすための選定を行おうとしておったのだ。お前も協力してくれるな?」
天界神はルシファーを見るなり、そういった。
「ええ、ですが私は何を致せばよろしいのでしょうか」
「お前の魔術で、未来を視て地上に居る姿が見えたならそれに従い送り込むのだ。……未来は、神々が決める事ではないのでな」
天界神はルシファーに命じる。
ルシファーは、天界神へ一礼し、天界の草原へと向かった。
(……今日が、人間を送る日でなければ良いが)
そんな事を思いながら飛行していると、その足は草原へと降ろしていた。
動物達は、相変わらず草原に生えた草を食べ、あるいは永遠に蘇る草食動物を肉食動物が捕食していた。
遠くでは動物達に交じり、鳥たちを肩に留まらせ、二人の人間が戯れている様子が目に映る。
「失礼するよ」
ルシファーは翼を全て広げ、生き物達の姿を目に捉え__魔力を解き放つ。
ルシファーの脳内に、これから草原に居る生命の全てが体験する未来が一気に流れ込む。
未来視の魔術は、魔力の保有量によって捉える未来の範囲が異なる、後に禁呪と言われる程の最上位魔術である。
視る事のできる未来の情報や一度に知ることのできる未来を持つ者の数、時間の範囲も魔力によって左右されるがルシファーの場合__
絶大な魔力を保有しているが故に、ひとたび魔術を発現させれば草原中の全生命の末代の姿まで捉えることができた。
大量に流れ込んでくる未来の映像に、ルシファーは頭痛を起こしその場で悶える。
「ぐっ……やれやれ、こうも個性豊かなんてね」
ルシファーは一人、笑っていた。
流れ込んでくる未来を脳内で整理し、地上界へ行く生き物たちの元へルシファーは赴いた。
「君、地上行きだよ。あ、君も。もれなく君らも、元気でね」
優しく、姿形のバラバラな動物達に別れの挨拶をし、魔法陣を展開させその中へ次々と入れた。
入れられた動物達は、魔法陣の光に包まれ消えていく瞬間、皆ルシファーの体に触れた。
それは、別れの挨拶を返しているかの様だった。
「大丈夫、きっとまた会えるからね、君らには地上でお仕事をしてもらうだけだから」
魔法陣を閉じる。
その後にまた、ルシファーは未来の記憶を整理する。
記憶の中には、未来の人間達の姿があった。
(ふむ、一番気になっていたところだが……)
未来の人間達は、確かに地上に降り立っていた。
アダムと、その妻であるイブが地上界の森で、生活を営んでいる姿が見える。
その様子に、ルシファーは微笑む。
(なんだ、私の不信も杞憂だったか)
そう思った瞬間、遠い未来が目に映る__……
(!!)
その子孫が、壮絶な殺し合いをする未来が見えた。
そして、その果てに残った子孫の、そのまた子孫はあらゆる生命を、道具によって殺し、皮をはぎ取り自らのものとする人間達の姿があった。
ルシファーは、未来を覗く事を中断させ、居てもたっても居られなくなり、人間の元へ飛翔した。
草原を流れる清流の川で、水を飲む人間_イブにルシファーは一礼し、話しかける。
「失礼します、イブ様。…………大変申し上げにくいのですがお話があります」
ルシファーは重々しく、告げようとする。
すると、イブは無邪気に笑う。
「ルシファー! ねぇねぇ、知りたいことがあるんだけど……!」
ルシファーはイブの、無垢な言葉に黙殺される。
「……なんなりと」
「時々見かける、あの金色の、つるつるのメロンみたいなのっておいしいのかな」
イブが指さした先には、天界の果実がなっていた。
(天界の果実……)
サタナエルの言葉が、ルシファーの頭に蘇る。
「でも、天使達とお父さんとそのお友達は食べちゃ駄目っていうし、食べてみたいなぁ」
ルシファーは、イブに笑みを浮かべる。
「では、食べてみてはいかがでしょう。大丈夫、私が蛇の姿を取り果実を採って、貴女様と蛇が遊んでいるように見せましょう」
その行動は、ルシファーにとっての、初めての賭けだった。
「え、いいの! やった! じゃあ、アダム君の分も採ってちょうだい!」
額に汗を流すルシファー。
それでも、平然を装う。
「仰せの通りに。それでは、ついてきてください」
ルシファーは自身に魔術をかけ、蛇へ姿を変え宙へ浮く。
川辺から、西へ五m程の位置にあった世界樹の樹冠へ向かった。
そして、ルシファーは世界樹を登り、果実を一つもぎ取り、咥えて渡した。
「さぁ、誰も見ていないうちに一口。甘くて、美味しいですよ」
この時、ルシファーは初めて嘘を附いた。
天界の果実の味など、知る由もなかったというのに。
「いただきます」
一口齧ると、イブの体は輝きだす。
「すごい……ぼやあっとしてた頭が、すごくすっとしてくる……! それに、柔らかくて、バナナみたいに甘い……!」
それを見て、ルシファーは頷き確信を抱く。
これで、人間にあの悲劇を回避させるだけの力を与える事が出来る。と。
「ぜひ、アダム君にも食べさせてあげたいなっ。アダム君の分も早く!」
「ふふっ、お任せを」
再び、ルシファーは果実を渡す。
「これだけしか、取ることができなくて申し訳ありません」
「いいのいいの! むしろわがままに付き合ってくれてありがとねルシファー! じゃあ夫のところへ行ってくる!」
笑顔で果実を持って走り去っていくイブ。
(このまま、食べさせていけば未来は回避できるやもしれんが、問題はいつまでバレないか、だな)
ルシファーは元の姿に戻る。
「ルシファー様、先ほどのは……?」
ルシファーが後ろを振り返ると、そこにはサタナエルの部下の一体、アモンが居た。
「お前、いつから見ていた?」
ルシファーは杖を呼び出し、その先端をアモンの首に向けた。
「全部見ていましたが、今ここで争う事もないでしょう」
「そうだな。私の力なら、貴様を消し去ることも容易い。……遺言を聞かなくてはね」
ルシファーがそういうと、アモンは両腕を振る。
「おっと、俺はハナから密告する気はありません。ただ、興味があればこちらの場所へ来ていただきたいと思まして」
アモンはルシファーに羊皮紙を渡す。
羊皮紙には、点字とルーン文字、天界文字、地上界文字の意味不明な羅列が刻まれていた。
「? 何が書かれているんだ」
質問すると、アモンは答える。
「……”てん” を消し、地上を残し、魔をてん より後に読む。……ヒントはそれだけです。答えを直接聞きたいのでしたら兄貴にお訊ねください」
それだけ答えると、アモンは魔法陣の中へ消えていった。
「あいつにも隠し事があるという訳か、それで…………殊勝な事だ」
ルシファーはヒントから考察し、読み進めていった。
(魔…………魔力があると言えばルーン文字だ。地上文字を残してまずルーン文字を……点字を入れるとめちゃくちゃになるので、天界文字を先に読んで次にルーンを読み、その後に地上を読むのか)
仮定の基に、羊皮紙の文字を解読していくと、目の前に黒い稲妻をまとった魔法陣が現れた。
その中へ、足を踏み入れていく。
魔法陣の先に繋がっていた空間は、おおよそ天界とは思えぬ場所だった。
かといって、ルシファーの知る、魔界でも地上界でも無い__未知の荒れた空間だった。
そこでは、灰色の地面に溶岩が流れており、遠くでは火山が見えた。
魔界の様に得体のしれぬ魔族達が闊歩するのではなく、その代わりに見慣れない天使たちの姿が見えた。
その天使たちは、各々未知の鉱石から何かを作っている様子だった。
「…………ここは一体?」
ルシファーがそう呟くと、ルシファーを見かけた天使がルシファーに話しかける。
「ようこそ、冥界へ」
「冥界………?」
思わず、オウム返しに聞いた。
「そうですとも、貴方がルシファー様ですね? いやはや、サタナエル様より話は伺っております。サタナエル様の元へご案内いたしましょう」
ルシファーは天使に連れられるまま歩きながら、周りを見渡していた。
死んだはずの生き物の魂が、どこかへと消えてはまた増えていくその光景にルシファーは、天使への質問を誘った。
「あれらは一体なんなんだ?」
「あぁ、あれですか。あれは転生ですね。……一部の選ばれ、死した獣や生き物に生まれ損なった魂達が、肉を付けられ魔界へ送られていくのです」
「転生先は、決まっているのかい?」
「はて、それは各々の思い次第ってところですね。望んだ姿に生まれ変わるので。もちろんその身に宿す属性も異なります」
天使は、流暢に語りながら歩みを進める。
「着きましたよ、サタナエル様の謁見の間です」
辿り着いたのは、灼熱の炎が燃え盛り、鋭利な岩が針の敷き詰められた剣山のごとく生えた、岩山だった。
その岩山の頂上には、炎を纏った玉座があった。
「ほぉ、まさかルシファーがここに来る事になるたぁな」
鎮座しているのは、サタナエル。
「サタナエル、これは一体……?」
ルシファーは飛翔し、サタナエルの元へ向かおうとする。
しかし、身体が重く、翼が機能できずにいた。
浮遊魔術も、何故か使えなかった。
ルシファーを見下ろし、サタナエルは愉悦に顔を浸らせる。
「ガッハハハハハ!! ここじゃ魔力が使えねぇよ」
炎を背中に付け、サタナエルはゆっくりと尖った岩を踏み抜き降りていく。
「何故、こんなところに居る?」
「神に反旗を翻してぇのは、何も俺様だけじゃねぇって事よ」
ルシファーは、再び周囲を見渡した。
冥界に居る天使たちは、皆展開で行方不明とされていた者達だった。
「……あそこで何かを指揮してるのはアスモダイに、バエル……アバドンにアマイモンも居るだと!?」
高名な、突如として行方をくらました偉大なる天使を前にルシファーは驚きを隠せずにいた。
「あぁ、あいつらは古参だ。ダーカーズ・デビルノコン鉱石の発掘を指示してる」
サタナエルの口から、未知の言葉が飛び出る。
「ダーカーズ……なんだって?」
困惑した様子のルシファーに、サタナエルは笑って返す。
「あぁ、俺様が考えた……この神々への反乱軍の名前を付けたんだ」
サタナエルが指を鳴らすと、ルシファーの案内役を担っていた天使が分厚い岩盤を、重たそうに持ってきた。
「……もし、神へ仇成す事、革命を起こさんとする事を悪とみなすのなら……俺たちはこの暗闇で爪を研ぎ、やがて天界という箱舟を破壊する」
岩盤に、サタナエルは文字を刻んでいく。
刻まれたのは、DARKとEVIL。
「……これが、俺たちの新たな名だッ!!」
サタナエルは爪でARK の部分を削る。
残されたのは、D EVIL。
悪 魔 。
「……洒落てるじゃあないか、お前にしては」
ルシファーは思わず、感心した様子で拍手した。
「ははっ、だろう?」
ルシファーへ、歩み寄りサタナエルは肩を叩く。
「………なぁ、お前………何考えて食わしたか知らんが、人間にやったんだろ? 天界の果実を」
「…………ばれたら、お前に居場所はきっとない。そこで提案だ」
「何?」
にじり寄り、汗を流し笑みを浮かべる。
「俺と、組まねぇか…………!?」
突然の提案にルシファーは困惑する。
「何故だ……? お前は私を妬んでいる、それに私の言動で、お前の提案に乗らないかもしれんのに何故そう誘える?」
ルシファーはそう言うと、サタナエルから後ずさる。
その様を見て、サタナエルは手と頭を横に振った。
「確かに、お前が妬ましいさ。だが、天界という場所さえ無くしてしまえば、場所さえ変われば俺様の天下がいずれやってくるやもしれん。そこなら、決められた地位じゃなく、純粋な武力で上下を付ける事ができる」
「恵まれた地位にいながら、お前は、初めて自分の意思で神に背いた。偉大な天使の長ともあろうものがな」
「…………なら、いっそ神に一矢報いてやろうぜ。天界を滅ぼし、最後に俺と戦ったその時には、お前が天界の王となれる可能性もある。……どうだ?」
サタナエルの瞳が妖しく光り、手を向ける。
ルシファーはその瞳に、吸い込まれていくように手を伸ばす。
その姿は、既に悪魔と呼ぶに相応しかった。
サタナエルの背後には、謎の鉱石ダーカーズ・デビルノコンで出来た武装に身を固める天使______否、”悪魔”達の姿が見える。
「……もし、魔王 というものがあるならお前にそれほど相応しいものは他にないだろうな」
ルシファーにとってもはや、後には引けなかった。
「ルシ、お前が来てくれてよかったぜ」
笑顔で、サタナエルはルシファーを迎えた。
ルシファーは、一方でダーカーズ・デビルノコン装備に身を包む悪魔たちの姿に興味を示していた。
「なぁ、あの鉱石には一体どんな特徴があるんだ?」
ルシファーが訊ねると、サタナエルは答える。
「あぁ、純度にもよるが魔力を吸い取って、何十倍にも何千倍にも、何万・何億倍にも鉱石の中で高める性質があってな」
「それを杖に加工したら、最強の杖が作れる。それに不思議なもんで、用途を理解しているのか所有者の魔力に応じて切れ味が変わってくるし、鎧にすると保有する魔力に応じてあらゆる属性魔術を反射し、物理攻撃を軽減させる」
「なにより、あれ取り出したてはともかく、発掘から三分経つとなにやっても壊れなくなるんだ」
ルシファーは黙って説明を聞き、ルシファーは杖を取り出そうとする。
しかし、魔術が使えない事を思い出し俯く。
「あ? なにしてんだ?」
「いや、私の杖を改造してもらおうかと思ったのだが………」
「そうだ、私の杖を作ってもらう事はできるかな」
ルシファーからの提案に、サタナエルは頭を掻く。
「あぁ………正直、お前が来ることは想定外だったしな……今から作らせるにしても、悪魔たちの装備をこさえるので手一杯でな…………」
「その務め、オイラが務めよう」
会話に交じったのは、ルシファーも知らない悪魔だった。
「お、マンモン! できるか!?」
「兄貴の盟友が仲間に入ったとあらば、オイラなりの礼儀で祝うさ」
マンモンは、採掘能力と知識に優れた、小柄の悪魔である。
「マンモン…………だったか、ありがとう」
「何、オイラが勝手に発掘した石ころだしね。 扱いはオイラが一番知ってるし、忙しい連中には任せておけん」
マンモンは走り、岩山の中から鉱石をすぐに取り出し、削り宝玉の形へと形成させていった。
「あとはほいっと」
宝玉に、針のような岩へ置き、爪を駆使した早業で岩へ宝玉を埋め込み、ルシファーに手渡した。
出された杖には、左側にこうもりの羽根、右側に猛禽類の翼を左右に三つあしらわれ、先端には埋め込められた宝玉が出ていた。
杖を手に取るルシファー。
ルシファーがその杖を手に取ることで、杖の宝玉は鈍く光る。
それは、杖自体が産声をあげているかのようだった。
「……地獄ノ憤怒」
無意識下ででたのは、杖の名前。
静かなる、明星の子には無縁の単語のついたそれ__否、そうルシファーを通して名乗る杖は、あたかもルシファー自身の精神を見透かしているかの様に言わせていた。
ルシファーは杖を振る。
すると、宝玉の部分はもとより赤黒かったのが、さらに血を吸ったかのように深紅に染まっていった。
その名を呟いたのは、ルシファー自身か、杖の意思か、はたまたルシファーの中で生を受けた”何か”か。
冥界にて、悪魔たちは開戦の狼煙をあげんとする。
明星の子の抱いた、不信。
反逆者の孕んだ、憎しみ。
自ら堕ちる事を選んだ者達の、かつて従っていた者達の愚かさへの嘆き。
全てに決着がつき、全てに変革が訪れる時が、刻一刻と近づいていた_。
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