第二章 第二話 グループホーム

 グリードに、手を引かれ、快の目の前の景色は、一変する。

先程まで見ていた、大都会の路上とは全く違う、細い歩道。

広い道路がその歩道を圧迫せんかのように、敷かれていた。

手を引かれるままに、しばらく歩いていると、左方向に、駐車場が見えだす。

三台の車が見える駐車場を歩いていくと、その先には桜色の屋根の建物がそびえていた。

「お、きたきた。あんまりここには来れないんで、忘れるとこだった」

進んでいった先の、建物の入り口は、ガラス張りの扉が構えており、その隣には看板がある。

(“グループホームびおれ”……やっぱり養護施設なのかな)

「オーナー、くたばってないといいけどな」

 グリードが軽く扉を押すと鈴の音が施設内に鳴り響く。

快がグリードの隣で立ち、施設の内装――木材特有の、縦線の入った床と防音室に使われるような穴だらけの天井と壁を見つめていると、杖をついた足音が奥から聞こえてきた。

その音に、快は思わず先へ視線を向ける。

杖の主は、伸び切り皺だらけになったアロハシャツを着て、丸いサングラスを顔にかけた壮年の男だった。

「こんにちは、どなたでしょう。ようこそグループホームびおれへ」

 男が低い声を、爽やかな笑みをたたえて壁方向へかける。

誰も居ない、壁に。

 その行為を見かねた様子で、グリードは自分の顔を叩き、ため息をついた。

ため息をついた後、グリードは男の背中を指先で突く。

「オーナー、俺はこっちだぜ」

 グリードの声を聞き、オーナーと呼ばれた男はグリードの方へ勢いよく反転した。

「その声! グリードか!!」

 反転した瞬間、杖が勢いのまま快に当たり、快の足が崩れる。

「うあっ!」

快が尻もちを着いて転ぶと、男は快の方を向く。

「あぁっと、ごめんな」

 男はそう言って、震える手でサングラスの横を擦る。

サングラスは、動作に反応し、レンズ自体が白い光を放った後、青色に染まっていった。

青色に染まると、男はようやく快に気付いたように、快の手を引っ張り上げる。

「あ、ありがとうございます。えっと……」

どう呼べばいいのか、困っているような表情を浮かべていると、男は快を立たせてから名乗った。

「おじさんの名前は――アンクル・サムとでも呼んでくんな」

白い歯をきらめかせていると、グリードの手がアンクルサムの頭に乗せられる。

「アンクルとおじさんで重複してるし、いきなり馴れ馴れしいっつうの。あとその虚言癖まだ治ってなかったのか」

 呆れた様子で、グリードが言うと――男はグリードの服の胸倉を掴み、顔をしかめた。

約十センチの身の丈の差は、男の足が浮かび上がる事で埋められて。

グリードは微動だにせず、必死に男は片腕で服を鷲掴みにしていた。

「お前、よくもぬけぬけと顔を出せるよな!? 俺とは縁を切った筈じゃあねぇのかよ、あぁ!?」

先程まで弧を描いていた歯を震わせ、睨んでいるとグリードが笑って返す。

「口が臭いぞオーナー……いや、ギルバルト・セルシュ。加齢臭かな」

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