第二章 第七話 始まりの地

 快が目を覚ますと、仄暗い空間が広がっていた。

 右隣を見れば、寝息を立て、安らかな表情で寝ている子供達の姿が映る。

 鳴りやまぬ肋骨を、激しく叩き続ける心臓を抱え、背中に濡れた感触を背負うのはただ一人。

 電気の消された、穏やかな一室を後に、快は寝ている五人をまたいで通り抜け、扉を開けていく。

 抜けた先の食卓の奥にある、台所の上に立てかけられた時計は午前二時を刺していた。

(夢か)

 快は胸を撫でおろすが――撫でおろした腕が、現実へと引き戻す。

 左腕に入った霜は、夢で見たものを彷彿とさせてやまなかった。

 震える義足ミギアシも、施設から駆け抜けさせるには十分なもの。

 快が居間から抜け、玄関の扉の鍵を開けると、ゆっくりと閉める。

 夜風は冷たく、虫の声と車の走行音が孤独を薙いで。

(あの夢の通りだとするとここから、北だっけか)

 施設の屋根を仰ぎ、拳を握ると快はある違和感に気付く。

(そうか、あの空間に放り投げたから鎧はもうないのか)

 快は、施設の先の歩道へ走り出す。

 幾台の車とすれ違い、誰も居ない歩道をただひたすらに。

(北ってどっちだよ……?)

 途方に暮れながら、感覚だけを頼りにして北上していく。

 景色に段々と、霧がかっていくと、靴底の感触が変わっていった。

 ――それは、あの日のように。

 誰も居ない夜、朝焼けの近い深き夜に――少年の旅が、再び始まりを告げるのであった。

 誰にも、知られずに――。

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