快が目を覚ますと、仄暗い空間が広がっていた。
右隣を見れば、寝息を立て、安らかな表情で寝ている子供達の姿が映る。
鳴りやまぬ肋骨を、激しく叩き続ける心臓を抱え、背中に濡れた感触を背負うのはただ一人。
電気の消された、穏やかな一室を後に、快は寝ている五人をまたいで通り抜け、扉を開けていく。
抜けた先の食卓の奥にある、台所の上に立てかけられた時計は午前二時を刺していた。
(夢か)
快は胸を撫でおろすが――撫でおろした腕が、現実へと引き戻す。
左腕に入った霜は、夢で見たものを彷彿とさせてやまなかった。
震える義足も、施設から駆け抜けさせるには十分なもの。
快が居間から抜け、玄関の扉の鍵を開けると、ゆっくりと閉める。
夜風は冷たく、虫の声と車の走行音が孤独を薙いで。
(あの夢の通りだとするとここから、北だっけか)
施設の屋根を仰ぎ、拳を握ると快はある違和感に気付く。
(そうか、あの空間に放り投げたから鎧はもうないのか)
快は、施設の先の歩道へ走り出す。
幾台の車とすれ違い、誰も居ない歩道をただひたすらに。
(北ってどっちだよ……?)
途方に暮れながら、感覚だけを頼りにして北上していく。
景色に段々と、霧がかっていくと、靴底の感触が変わっていった。
――それは、あの日のように。
誰も居ない夜、朝焼けの近い深き夜に――少年の旅が、再び始まりを告げるのであった。
誰にも、知られずに――。
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