第三十一話 少年の叫び

 抱擁を交わしあう、人外二体を前に、快は微笑んでいた。

「良かった、ユンガさんも、キマイラさんも――家族に会えて」

その台詞にあるのは、安堵の吐息。

「にしてもこれから、どうするおつもりですか? ユンガ様も、キマイラ様も」

アムドゥシアスが二体に話しかけると、ユンガは憎々し気に語る。

拳に、稲妻を纏わせて。

「決まっているだろう、後はジェネルズ――奴を葬る」

キマイラも、それに応えて唸った。

「ジェネルズ………そうか、奴はジェネルズと言ったか、忌々しい………」

快は、キマイラに近づく。

「あの施設に捕らえられていたみたいですが、何故、捕まっていたのですか?」

キマイラは、目を丸くしながら答える。

「? あ、あぁ。……ジェネルズは、我を滅ぼし、全種族の進化への布石とすると言っていたな……それは無謀として終えたわけだが」

敗北を喫したという告白にも関わらず、キマイラの笑みは不敵なものであった。

その笑みに対して、キマイラの隣でユンガは憂いに顔を曇らせる。

「キマイラ、あまり無茶しな……するな」

咳払いは、でかかった言葉を遮った。

「何、お前を残して我は死なん。だが――ふと気になったことがある」

キマイラは、怪訝な顔を浮かべ、快の顎を撫でる。

快は、ただ伸ばされた手に触れていた。

「お前、古代魔界語が堪能ではないか。どこで習った? 今どき学ぶとは考え辛いが」

 突然の質問。

その問いは、快にとってまるで理解不能だった。

しかし、その“答え”は――すぐに知る事となる。

「何いってるんですか、僕は普通に――」

「快、さっきから、こいつらと話せてるのか?」

再び起こった頭痛と、棕の声によって。

「いたっ………そうだけど?」

片頭痛にも似た感覚は、先天鏡の役割を快に告げていた。

(なるほど、自動で言葉が双方の使った言葉に翻訳されるのか)

 先天鏡の機能に、驚いていると、快は周りを見渡す。

ある影が、いないことに気付いて。

「グリードが、またいなくなってる………!?」

「まじかよ! あいつほんとどこほっつきあるいてんだ!?」

棕と快が周りを見ていた時。

 遠方から、爆発音が鳴り響いた。

爆発音の方向は、森の正面奥――街がある方向。

キマイラとユンガは同時に身構えると、やがて、きのこ雲が上空に浮かび上がった。

「まさか、ジェネルズ………!? だとしたらグリードが向かったのは!」

ユンガが言うと、棕は頷く。

「ぐずついてる場合じゃあないっしょ、行くよ!」

 各自が正面を突っ切り走ると、快は自身の指輪を覗きだした。

その宝石に映るのは、自身の――変わり果てた姿。

と、同時に、氷の戦友アイネスの姿が重なる。

倒すべき、仇敵の――非道なる所業の数々も。

「アイネス、君の力が僕を生かしてくれている。氷は、自分が溶けるのを許さない………君だってそうだったろう」

快が、呟きと共に宝石を取り換えようとした瞬間。

ダーカーズデビルノコンは、風のジェダイトと炎のロードナイトを吸い込んでいく。

すると、快の身は一瞬、氷の膜に包まれていった。

幻覚かと思わせる事象を目の当たりにし、快は驚きの声をあげる。

が、声を上げる間もなく、次なる映像が飛び込んできた。

「うあっ………!?」

その映像は、かつて――ダーカーズデビルノコンの鎧に包まれた時と同じものだった。

全身が焼け焦げる程の黒き灼熱が、自分の身を焦がし。

混沌という言葉を具現化したかのような、光よりも鮮明に、闇より暗い“あり得るはずの無い”風景が広がる。

(――またこの感覚!! だけど――――僕は、生きなければならない理由がある! 倒すべき敵に、届きそうなところに居るんだ!)

歯を食いしばり、形容し難き重圧を前に、快は抗った。

足を震わせ、腕を振るわせ、精神こころを――奮わせて。

(僕は、絶対に生き延びるんだッ!!)

少年の、決死の叫び。

それは、苦痛を与え続けていた印と灼熱を、皮膚と共に溶かし、指輪の宝石たちが融合を果たし――。

一つの、荘厳な鎧の形へと変わって行った。

隙間から蒸気を発し、青緑の表面を黒炎と白炎に燃やす――それは、神話に語られる英雄神すら稚拙の極みとさせる造形をし。

その手に握られたのは、双剣の片割れ――髑髏の剣。

 力を得た、生を渇望した少年は叫んだ。

あがき、もがいて。

もはや、彼を止める者は――この先に待つ“討つべき者”しか居らず。

神の如き鎧の、否、神すら超えた鎧は、今決着を付けんとしていた――。

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