禁忌の召喚者第二二話 Gun”s・Peace

 「車の中に入れ」

 銃を構えた武装集団の隊員が、一行に向かって腕を振る。

快が武装集団の乗っていた車に目をやると、車の扉は開かれた。

車内は、バン型の車両というに相応しく――広々としており、座席はもはやソファーのように連結していた。

しかし同時に――車としての機能だけを求めた、無機質な空間が広がっている。

 快は、それを見て武装集団を前にグリードの胸から逃げ出そうとした。

が、グリードが手を離さず、武装集団を睨み続け――――集団へ問いを投げかける。

「おい、手厚い歓迎も結構だが質問にくらい答えてくれないか。でなきゃ、俺達にも考えがある」

グリードの体に隠れつつ、様子を見ていた棕が肩から頭を覗きこむ。

瞬間、グリードの足元に銃撃が迸った。

(こりゃへたに挑発しない方がいいな、うちとアムドゥの力でもこの人数じゃあ…………)

 棕が視認するかぎりでは、集団の人数は道路一帯を両脇から封鎖していた。

その数、約二十人弱。

 しばらく往生していると、二十人の武装集団の中から、トレンチコートを羽織った女が割って現れた。

トレンチコートをまとった体には、深緑色の軍服が着せられており、自衛隊幹部というより旧日本軍兵士を周囲に彷彿とさせる出で立ちだった。

女は、赤色交じりの黒髪をなびかせ左手で胸ポケットからパイプを取り出すと、右手をズボンのポケットに伸ばしライターを握り語りだした。

「待ちなさい、私たちの目的を話せ、と言ったわね。良いわ、聞かせてあげる。―――総員、休め」

 パイプから煙を立ち昇らせながら女が指を鳴らすと、武装集団は女を中心に一糸乱れぬ整列をし、武器を持ち直す。

そして、女は警戒を見せるグリードを前に、胸を張り堂々と歩み寄った。

「私は麓・ハガード。私たちは、貴方たちに協力してほしいの」

麓が言うと、グリードが正面を向き直し返す。

「へぇ、にしては御大層なこったな。外国産のライフル――その形確か、”XM八”だったか? 五.五六mm弾を発射するライフルでありながら、グレネード弾を発射するとかいう。だが――」

「――高すぎる過剰な殺傷力とその多機能さから米軍に不採用になってた代物だな」

「さらに言えばその拳銃も、イタリアのベレッタM九三Rとは趣味が良いな。九mm口径の弾丸を三発連射できる要人警護用に忍ばせておく代物だ。それをこんな真逆の用途で使うなんて、開発者に一旦頭下げておいた方がいいぜあんたら」

「色々と、装備に突っ込み所ありすぎなんだよあんたら。それで自衛隊をよく名乗れたもんだ」
 
 グリードが武装集団の装備を鼻で笑う素振りを見せると、麓はパイプを一瞬噛んだ。

凛とした、細い目を赤く染めながら麓は語り続ける。

「………君たちの事はマークしている。特に、君―――グリードといったかな? 君の稀有な力は我々にとって非常に強力な武器となりうるわ。是非協力して頂戴」

「我々の目的はただ一つ、君の遺伝子情報をもらいたい。そこで、我々の施設でしかるべき対応をさせてもらうという算段。どう? これで信用できる?」

 麓は、一見ラフな口調で返し続けるグリードに倣うかの様に、パイプを噛みつつ手を伸ばすとグリードは笑みをたたえた。

麓の瞳には、グリードの笑みは怒りを誘う表情として写っていた。

「ほほぉ、遺伝子ね。で、渡したところでどう利用するわけだ? そんな楽しそうな兵装してるんだ、まともじゃあないだろどうせ」

「…………世界中に、たくさんの怪物が魔界や冥界、天界から来ているのは知っているわよね。我々は、そういった人外の連中から日本を守るために裏で活動してるの」

「TVで、不自然な形で報道されてる殺人事件は聞き覚えないかしら? そうやって、表で公表するにはいささか刺激が強すぎる事を隠すのも、それに対して早急に対処するのも我々の任務なの」

 麓の発言を聞き、グリードの体に身を隠していた快は、目を大きく見開く。

天護町で起こる、連続怪奇殺人。

行方不明事件。

快の目の前に、突如として現れた組織の存在に対し――畏敬を抱かざるをえないでいた。

「………じゃあ――僕はきょうりょ―――」

 快が一言を零そうとすると、小さなその口をグリードの手が塞ぐ。

快は、グリードに目線を合わせると―――グリードは無言で快の方に振り返り、首を横に振った。

(何故、ここで止めようとする?)

 グリードは、快の口を塞ぎながら―――小声で語った。

「今、この場でイエスかノーかを判断してしまえば、後々面倒な事になる。もう少し相手の情報を探らないとだろ」

グリードが麓の方へと向き直す。

「協力するかしないかは、まずお前達の活動内容を見させてからにさせてもらうぜ。車に乗せろ」

「解った、乗りなさい」

麓の言葉と、グリードの誘導によって快と棕は車両へ乗り込んだ。

(このまま、ついていっても大丈夫なんだろうか)

 快は、不安を孕みつつも、歩みを進めていく。

車両のドアが閉まり、集団が乗り込んでいくと――快は唾液を飲み込み、座席へ座る。

謎の組織へ、乗り込まんとする一行に、待ち受けるものとは―――。

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