禁忌の召喚者 第一三話 引き戻されていく、深淵へ。

 一行は、教会を出て北へ二キロ離れていった。

教会から、逃げるかのように。

「あれで、本当に終わったんだろうか」

快は、言葉を零す。

「さぁ、問題はあの銀髪のおにーさんの方じゃない?」

棕が返すと、思い出したかのように快は反応した。

「そうだ、元凶の一つに心当たりがあるっていってた…………あれはどうなったんだろう?」

快は、ポケットにしまっていたカードを取り出す。

取り出したのは、ユンガとの契約をしたものだった。

「ユンガさん、応答を」

カードに話しかける。

しかし――カードはなんの反応も示さずにいた。

(何故? もうあれから二時間は経っている筈……………)

(不安だけれど、しばらく返事が返ってくるまで待つかな)

快がカードを再び戻した直後。

「快、顔が少し青いよ。大丈夫?」

快の顔を、覗き込むアイネスの姿があった。

「大丈夫、気にしないで」

快が微笑んで返すと、アイネスはそっと快の側から離れていった。

(これで目的は一部達成したけど……)

快は、深く瞼を閉じて思考を巡らせる。

時間にして、二〇分の思考の末、声が響く。

「ねぇ、息抜きしようぜ?」

棕の声だった。

「息抜きって?」

快がおうむ返しに問うと、棕は無邪気な笑みで答えた。

「いや、こう? なんかごたごたしたことばっかり起きてさ、気を張り詰め過ぎてないかと思ってさ」

棕の言葉に、快は我に返る。

(思えば、確かに最近休めてないし…………いいかもしれない)

快は頷いて、言った。

「じゃあ、どこへ行く? 街は壊滅してしまったし、遊べるような場所なんて…………」

快が返すと、棕はにこやかに言い放った。

「あるよ、とっておきの息抜きの場所が!」

棕が指さした先には――都市の入り口ともいえる、摩天楼群があった。

「町って、一つだけじゃなかったんだ」

アイネスが呟く。

「そうそう! おいで、ゲーセンまでひとっとびだ!」

棕が快の手を思いきり引き、数々のビルのそびえる街中へ飛び込んでいくと、アイネスもそれを追っていった。

一行が田舎道から横断歩道を渡っていくと、ショーウインドーと街路樹に挟まれた、若者でにぎわう歩道へいよいよ進む。

ショーウインドーに映し出されるのは、戦ってきた己らの姿。

「ほらほら、遅いよ、しまっちゃうじゃんか!」

快の手を引っ張り、陽に照らされた棕の笑顔は眩しく。

快はそんな棕の様子を見て、はにかんでいた。

 (みんな楽しそう………”ゲーセン”ってなんだろ、見てみたいな)

アイネスが期待を胸を弾ませていると、棕と快の足が止まる。

「ここ! いつも世話になってんだ!」

 辿り着き、目の前のそこにあるのは、若干さび付いた看板を掲げた、ゲームセンターだった。

古めかしさを醸し出した看板の下の自動ドアは、透明になっており、快が足を延ばすとすぐさま反応し中へ迎え入れた。

店内は、看板から匂わせる雰囲気とは相反して色とりどりなゲームが並んでおり、親子連れの客がちらほらと居た。

「やっぱここだね~! ねぇねぇ、何するよ?! とりあえず初手はメダゲーっしょ、お金はうちが払うよ!」

 店内へ入るや否や、棕は興奮し快とアイネスに目線を合わせる。

「じゃあ、このシューティングゲームやろう!」

快が注目したのは、台座に火縄銃を模したコントローラーの置かれたアーケードゲームだった。

「お、”DEAD OR ALIVE NOBUNAGA”ね! やろやろ!これ最大四人同時プレイ可能なんだよね~!」

快がコントローラーを手に取ると、アイネスは隣に立ち、棕はいつの間にか百円硬貨を四人分台座に入れていた。

「アムドゥ! 遊ぶよ!」

棕が元気よく言うと、ポケットの印章封印札からアムドゥシアスが飛び出し、すぐに火縄銃を構えた。

「今回こそは、カンストしますよ!」

アムドゥシアスは意気込む。

「よくわかんないけど、見よう見まねで」

一方で、アイネスは他三人の操作を見ながら操作していた。

「ゲーマーの実力、見せてやる!」

快がコントローラーのトリガーを引くと、ゲーム開始の文字が台座の正面に置かれた画面に表示される。

「いうて引っきーっしょ? こちとら世界出てるんでね! 体力ならこっちが上手なの!」

棕も同時に、トリガーを引くとオープニング映像が流れ敵キャラクターが画面いっぱいに出現した。

火縄銃の照準を合わせ、三人はトリガーを引き、敵を倒していく。

それを見てアイネスは三人に遅れたペースで、敵を撃っていった。

「ヘッショコンボ!! ふっふー! 五十六キル!」

「甘いですね! 六十キル!」

「ぐぬぬ………四十八キル…………コンボはともかく、僕はボーナスアイテムも拾ってるんだ、負けてたまるか!!」

「ばん、ばん…………十二とか十三とか出てるけど、これでいいのかな」

四者四様に、白熱しゲームに興じる。

そこにはもはや紛れも無く、種族や年齢、病を越えたものがあった――。

 「っしゃおらぁい! フルコンボ!!」

ゲームをクリアし、台を思いきり叩く棕。

「クリアタイムですかね……………今日もカンストならず」

アムドゥシアスは対して、そっとコントローラーを台に置き戻し、汗ばんだ手を振っていた。

「だめだぁ~、二人ともヘビーユーザー過ぎないかな?………百コンボで切れた時は焦ったし………」

快は汗で全身を濡らし、息を切らす。

「……………たのしかったぁ」

エンディングを最後まで見終わり、アイネスは、ゲームでの勝負の反動に燃え尽きた三人を差し置くように目を輝かせ、コントローラーを置いた。

「ええい、次のゲームで勝負だ! あの音ゲーで!」

快は切らした筈の息を早急に整え、指を伸ばす。

伸ばした先には、ギターを模した形状のコントローラーが置かれたゲームがあった。

「ぷっ、プロに勝負挑むとかすげぇな。その根性、嫌いじゃないよ!」

鼻で笑いながら、棕はギターを構える。

そして、快は台座の前のディスプレイを撫で、演奏する曲を選択した。

選択した曲は―――。

「blue rose chein ! あなたの曲で、あなたを越える!」

快は高らかに宣言する。

「いいよ、そうこなくっちゃ! だけど、思い上がりってこともあるんじゃねぇ?!」

 宣戦布告を受け、ギターの音が、ゲームセンターに広がっていった。

 その一連のやりとりをアイネスとアムドゥシアスはアイスクリームを食べながら見ていた。

「気分だけアムドゥに合わせる。あ、快、頑張れ~」

「魔術で出来たアイスとは……棕も手加減するのですぞ~」

そういった傍から、演奏は始まっていた。

凄まじい弦と弦のデュエットは、熱気さえ生んでいる。

時間にして、約三分後。

決着は、ついてしまった。

「……………うちの曲なのに……………一万点中百スコア差で負けた………………」

コントローラーを台にかけ、棕はその場で膝から崩れ落ちた。

「伊達にいつも聞いてないもんでね! もう覚えてるから!」

快は、額から雫を滴らせ、ピースサインを見せる。

勝負を見ていたアイネスとアムドゥシアスはただ、拍手をするほかになかった。

「おお」

「オリジナルを超える、模倣とはなんたる奇跡。もしや音楽の才能があったり?」

アムドゥシアスがよると、快は崩れた棕に手を伸ばしながら言った。

「音楽の才能なんてない、ただ大好きなものを真似しただけ。いい曲を作る事は、なるそーにしかできないことだからさ」

「…………うー今に待ってろ、誰も真似できない曲つくってやるから」

棕は立ちあがり、快の肩をぽん、と叩く。

「へへっ……………あ、トイレ行ってくる。みんな、待ってて!」

「おう」

快は、人混みの中をかき分け、トイレの方へ向かった。

 男子トイレへ着き、用を足し終えると――。

「よぉ、お主がか」

何者かの声が、背後から聞こえてくる。

「…………どなたですか」

快が後ろを向くと、そこには誰も居らず、トイレの薄汚い茶色に染まったタイルだけが広がっていた。

「なんだったんだ?」

焦るように、快がトイレを出た瞬間。

「少年、無視は困るぞ?」

声が再び、快の脳を支配する。

「誰だ!? 悪魔か!」

反射的に言うと、笑い声で返されていった。

「俺が悪魔? 笑わせるな、俺は断じてそんなチンケなものじゃあない」

「なら、姿を表せ。話はそれからだ」

快は指輪を構え、人ごみや目に映る全てを睨んだ。

「互いに敵か味方かわからぬのに、一々手の内を晒すような真似をするかね。そう、その指輪とてそうだ。俺ならもっとうまく扱えように」

声に、快は寒気を催す。

(こいつ……………この指輪を知っている?! どこからどこまで………………)

「指輪の事なら、少なくとも少年よりもはるかに存じているが?」

「こっ………心が読めるのか?」

「あぁ、もっとも、これは俺らの特権だが、ね」

快は、走り出した。

店内を駆け巡り、仲間の元へと。

(まずいまずいまずいまずいまずい!!!!)

日常から一変し、またしても深淵へ足を引きずり戻される。

翻弄される運命に、抗う術は今は無し――。

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