孤独なる魔王 Lucifer編 明星は高く在り

孤独なる魔王

 天界。

そこは、清き生命達の楽園。

聖なる場所。

天使たちが歌い、純白の、雲の様な美しい大地には花が咲き誇りそこに生きる生き物たちは天使たちの喜びの歌に旋律を奏でる。

「聞くのだ、我が愛すべき子供たちよ」

荘厳で、どこか優しさに満ちた声が響く。

天界を統べる、神の声である。

天界神は、花の咲き乱れる大地を踏むことなく宙に浮き、歌っていた天使たちに告げた。

「これより、”人間”を作る。他の神々にも伝えよ……」

天使たちは、戸惑いながらも各々がその場から瞬間移動魔法を使い、天界に存在する様々な神に伝えた。

戸惑ったのは人間という生命体について何も神は語らなかったからである。

神々への伝令は、下級の天使たちに任せられていた。

一方で、上位の天使たちは天界の神に仕え、”人間”という生命体の実態を知っていた。

人間の創造は、秘密裏に行われていたのである。

「神よ、一体何故ニンゲン? とやらをお創りになられようと?」

天界神の側の、一二枚の羽根を持った天使が訊ねた。

「今いる天界に居る動物達に、英知を以て秩序をもたらしさらに繁栄を促す存在が必要なのだ。それは天使の奇跡では足らぬ」

「お前たちの起こす奇跡は、いわば”自然現象”よ。永遠ではない。……だからこそ必要なのだ、永遠に残る奇跡を起こす”人間”が」

天界神はそう言いながら、魔力を込め人間の創造に入った。

「待て待て、それって道具だろ? 道具を作らせてぇなら、他の種族で間に合ってるじゃあねぇか。ドワーフとか、サイクロプスとか。……寒いトコだと、タイタンどももいたか」

「口を慎みたまえよ、サタナエル」

美形の、六枚の羽根を持つ天使に、一二枚の羽根を持つ天使は持っていた杖を向ける。

「止せ、他の種族には無いものを作るのだ、人間は。……ドワーフやサイクロプスの作る道具は、効能がいささか動物たちが扱うには刺激が強すぎる」

天界神は、穏やかに言った。

「なるほどねぇ、馬鹿におあつらえ向きの品物の専門家どもってこったか」

サタナエルは、神の隣に立っている柱で爪を研ぎながら言った。

「やれやれ、君には我らが主の崇高な思想が分からんらしいね。こんなのが血を分けた兄弟だとはあな嘆かわしきかな」

「ふふ、言ってやるなルシファーよ。ほれ、もうすぐできるぞ」

天界神が振り向くと、その両手には球体が握られていた。

「なんですか? これは」

ルシファーは球体にそっと触れ訊ねた。

「卵だ、人間の」

堂々として言う天界神に、それを聞いていたサタナエルは爪を研ぐのを止め、天界神に歩み寄った。

「はぁ? 哺乳類の予定だったろ天界神さんよ」

サタナエルがそう言うと、天界神は笑った。

「わっはっはっは、そう言うでない。我々神々と天界とて、光聖竜と暗黒竜の死体のエネルギーから生まれたのだ。我らが親たる竜たちも卵で生まれたのなら、人間もここから生まれても問題はあるまい」

「あ、いや、そういう問題かねぇ。ルシ、おめぇどう思う?」

サタナエルはルシファーに目線を合わせた。

「細かいことは気にするなと仰っているのだ、サタナエル」

「えぇ……だめだこいつら付き合ってらんねぇ」

サタナエルは翼をはためかせ、神の元から飛び去って行った。

「どこへ行くんだ?」

サタナエルの後ろ姿に、ルシファーは呼びかける。

「ちょっと酒飲んでくるぜ、どっかの女顔真面目ちゃんのせいで酔ってなきゃやってらんないんでな!」

「ふん、おつむと品の無い奴だ」

お互いに悪態をついている様に、天界神はため息をついた。

「全く、お前たちにはできた人間達を導く管理役をしてもらおうかと思っておったのだが」

「! その役目、僭越ながら、このルシファーが務めさせていただきましょう!」

ルシファーは、天界神のつぶやきを聞き逃さず食いついた。

「おぉ、やってくれるか。では任せた。熾天使達にも伝えるのだぞ」

「はっ」

ルシファーは敬礼すると、天界神の前から飛び去り、天界を駆け巡った。

天界の空は広大であるにも関わらず、各々の天使の魔力から場所を特定し、飛行する他に移動手段は無かった。

(一番近い位置に居るのは……ガブリエルか)

ルシファーは綿のような雲を蹴散らし、急降下しガブリエルの元へ着地した。

そこは、白ユリの花園だった。

「おやまぁ、ルシファー様じゃあないですかぁ~、どうです? 白百合はいかがですの?」

ガブリエルは、白百合の花束を持ちルシファーに差し出した。

差し出された花束をルシファーは一礼して受け取り、ガブリエルに報告を行う。

「実は、人間の管理係となったのだ。だが下級の天使たちにはくれぐれも内密に頼む」

それを聞き、ガブリエルはルシファーに笑顔を向けた。

「まぁ! なんてこと……ルシファー様なら、きっとうまく導けるはずだわ! ほら、ルシファー様動物好きだったじゃない!」

はしゃぐガブリエルを前に、ルシファーは頬を染める。

「いや、別に好きではないが……その、ええ……とだな」

翼をしならせながらルシファーはガブリエルから顔をそむけていた。

「もう! 素直じゃないんですから!」

「お、おっともう行かなくては。それではガブリエル、よろしく頼んだ」

ルシファーは地面を思いきり蹴り、飛翔した。

「…………でも、ルシファー様ってちょっと乱暴なところあるから、大丈夫かしら……」

踏み散らされた、白百合を見てガブリエルは言った。

 (次は、天界の門に居るウリエルか。……正直、あいつとはあまり口を聞きたくないものだが)

ルシファーは北へ向かい、天界の門へと降りた。

そこには、厳しい表情の、炎を纏った武具に身を包んだ天使__ウリエルが門の前で立っていた。

「ルシファー様、何用ですかな」

「人間の管理を任されてね、熾天使達に伝え回っているんだよ」

「ほほう。……つかぬことをお聞きしますがもしその人間達が罪を犯したならば、どうするおつもりで」

ルシファーは返す。

「罪の具合にもよるが、君の想定している罪とはなにかな」

「……他の命を傷つける行為をした場合ですよ」

そう言うと、ルシファーは迷いなく答えた。

「その時は、例え天界を滅ぼすことになってでも人間達に罰を与える。……生命体としても新入りの癖に、他の生命を傷つける権利がどこにあろうか」

「…………あなた様らしい、しかしそのご意思で決して己を滅ぼさぬようにご用心なされよ」

ウリエルは、どこかルシファーを心配した様子で言った。

「何、直情的なサタナエルじゃああるまいし、私はうまくやるとも」

ルシファーはそれだけ言い残し、門の前から飛び立った。

 (次は、ミカエルか。……あいつは気さくだから気を楽にして済みそうだ)

ルシファーは、天界の兵舎のある南へ向かった。

天界の兵営では、凛とした天使兵達の声が響いていた。

「遅い!! もっと腰を重く据えろ!! 飛行部隊! なんだその速度は! ひよこの羽根の方がまだ力強いぞ!」

その中で、声を張り上げ指揮を執る軍団長の姿があった。

熾天使の一体、ミカエルである。

「やあミカエル、今日もやってるね」

兵舎の壁に寄りかかり、ルシファーは軍事基地で、天界の軍服を着たミカエルに話しかけた。

「ルシファー様、ご息災でなにより!」

ミカエルはすぐにルシファーの元へ駆け寄り手を握った。

「ああ、君らが働いてるおかげでね」

ミカエルへルシファーはウインクしながらそう言うと、ミカエルは嬉しそうに笑った。

「えへへへ! あ! ここへいらっしゃったという事は……」

ミカエルはルシファーからそっぽを向き、一糸乱れぬ行進をする天使の軍団へ声を出す。

「貴様ら!! ルシファー様がお越しになっている!! これより緊急披露演習を行う!!」

先ほどまでとは打って変わった、ドスの効いた声だった。

「違う違う、演習を見に来たわけじゃないんだ。……報告があってね」

ミカエルはルシファーのその言葉を聞き、早々に再び軍隊へ声をかけた。

「貴様ら!! 前言撤回だ!! さっさと各自持ち場に戻れ、行進は終わりだ!」

ルシファーはミカエルの豹変ぶりに動じる事無く、話を続ける。

「ここでは話辛いことなのでね……すまないが、ここを離れてもらっていいかな?」

ルシファーがミカエルに耳打ちすると、ミカエルは頬を紅く染めた。

(えっ……ルシファー様が私なんかに話って……しかもここじゃ話辛い事ってもしや告白!?そんないけませんルシファー様…………)

妄想を滾らせ、ミカエルは顔から煙が噴き出んばかりに顔を赤らめる。

「は……ひゃい、場所はルシファー様がお好きに……」

「助かるよ、下級天使に聞かれてはまずいからね」

ルシファーとミカエルは基地から離れ、天界の基地近くにある大木の元でルシファーはミカエルに伝える。

「ミカエル、実は__

ルシファーの吐息が、ミカエルの柔らかな髪に触れる。

「はい………?」

「人間の管理係となったのだ。くれぐれも、他言無用で頼む」

ミカエルは、予想外の告げられた台詞に拍子抜けした様子で、その場に立ち尽くす。

「あ~、はい! うん! ルシファー様ならきっとうまくいきますでしょう! このミカエル、応援していますとも!」

「ありがとう」

ルシファーはそう伝えると、ミカエルから背を向け翼を広げた。

「あ、そうそう__

何かを言い忘れた様子で、ルシファーはミカエルの方へ顔を向ける。

「今度、また飲みに行こうか。……二人っきりで、ゆっくりとね」

優しい笑みで、ミカエルに提案するとミカエルは二つ返事で答えた。

「はっ……はいっ!」

「では、またね。あまり、下級天使達をいじめすぎないように」

ルシファーは、地面を蹴り飛び去る。

(ほんっと、ずるいんですよ……あんな風に言われたら、断れるわけないじゃないですか……逆らえないや)

ミカエルは、頬をさすりながら決して誰にも見せぬ表情で、心の中でそう呟いていた。

ルシファーは、元の天界神の玉座の間へと戻り、玉座の足元で置かれた人間の卵を見ていた。

(どんな生き物になるんだろうか、私がしっかりと導かなくてはな……)

卵の前でうつぶせになり、頬杖をついて卵を撫で_ルシファーは微笑んでいた。

「やはり、生命は等しく愛おしいモノだ。ウリエルにはああ言ったが……お前達、私にそんな事をさせないでくれよ?」

冗談交じりに、くすりと笑いながら卵の上で人差し指を置き、円を描く。

すると、滑らかな感触と共に、殻越しの鼓動がルシファーの指に伝わる。

「ふふっ、生まれる時が楽しみだ」

「そうかそうか、お前が嬉しそうでよかったよ」

ルシファーが独り言を呟いていると、天界神が独り言に交じる。

独り言に交じる天界神の気配に驚き、ルシファーはすぐさまその場から立ち上がった。

「わっ!! おかえりなさいませ! あのえとですね……つ、伝え終えました! 報告!」

「うむ、ご苦労。……儂は、しばし眠りにつくとしよう。ルシファーよ、卵の世話を頼んだ」

あくびをしながら、天界神は玉座に座った。

「あぁ……そうだ、もし卵が孵り、如何なる理由があろうとも、天界の果実を与えてはならんぞ」

天界の果実__それは魔界へ根を構え、あらゆる時空・次元を超えて一部を露呈させ存在し、天界に樹冠だけを出す”世界樹”に実る未知の果実である。

「わかっています。では、おやすみなさいませ」

ルシファーが天界神に一礼すると、天界神は眠りについた。

「……さて、どこへ連れて行こうか」

卵を抱え、ルシファーは飛び立つ。

空を駆け、辿り着いた先は獣たちの居る、天界の草原だった。

「ふむ、生まれるならここが良いかな」

草原に降り立ち、ルシファーは座り込んで卵を置いた。

卵を眺めていると、草原を跳ねていた兎や狼に鹿がルシファーの元へ寄った。

「おや、追いかけっこはいいのかい?」

動物たちに優しく語り掛けると、兎はルシファーの膝に乗った。

それを見ていた狼はルシファーの頬を舐め、鹿は頭を首筋に擦り付けていた。

「あははっ、そうかそうか……私に会いたかったんだね、私もだよ」

ルシファーは笑顔で動物達を撫でる。

向けられた温もりに、種族と言葉の隔たりは無かった。

やがて、様々な形の動物がルシファーを囲んでいた。

ライオン、サイ、山羊、羚羊、蛙に蛇……果ては、鳥類も留まっていた。

ルシファーが動物達と戯れていると、一匹のライオンがルシファーの両脇に置かれた卵に手を置いていた事に気付いた。

「おっと、割っちゃ駄目だよ。……喜べ、君らに兄弟ができるんだ」

ルシファーはライオンから卵を取り上げ、卵を高く掲げ動物たちに見せた。

動物たちは首をかしげた。

未知の存在を前に。

「まだ生まれてないが、生まれたら仲良くしてあげるんだよ」

そういった瞬間、卵に亀裂が入った。

「なに!?」

ルシファーが後ろを向くと、地面に置かれていたもう片方の卵にもひびが入っていた。

地面に、持っていた卵を置くルシファー。

亀裂の入った卵から、殻を蹴破る足が飛び出る。

それを見て動物たちはその場から後ずさる。

ルシファーはただ、卵の側で誕生を見守っていた。

そして_二つの卵から、”人間”が誕生した。

その姿は、天使に似ていながらも羽は無く、その体から発せられる魔力も天使のそれと比べて貧弱なものだった。

「はじめまして、そしてようこそ天界へ」

ルシファーは並んでいる人間の赤子へ微笑む。

「えっぐ……うええ」

同時に生まれた赤子の片方はルシファーの存在を感じ取り、泣き出した。

「おっと、参ったな。よしよし……天界神様に報告せねば」

赤子を両腕に抱え、ルシファーは飛行態勢に入る。

「君たち、また後で遊ぼう」

ルシファーは動物たちへ言い、飛び去った。

玉座へ着くと、天界神は昼寝を終えた様子で片腕に魔力を込め、地上界へ通ずる魔法陣を作り出していた。

「おお、ルシファーよ……生まれたか」

「ええ、この通り」

ルシファーは天界神に赤子を渡す。

「ほほう、よいよい……ルシファーよ」

「はっ」

「この子らには、これから開拓する地上界を支配する主人となってもらう」

天界神の言葉に、ルシファーは固まった。

「お待ちください、地上界の主には既に各属性の竜が居ますし、荒れている地上界を開拓するにもあの草原の動物達で事足りている筈です。荷が重すぎるのではないでしょうか」

困惑した様子で天界神に言った。

「ああ、だが竜たちは余りにも力が強すぎる。それに動物なら既に数百体は送っておる……だが、力の差だけでない繫栄に必要な新しい概念を生み出してくれると儂は期待しておるのだ」

「強すぎる力だけでは、暴力だけが全てとなってしまう。……それでは、地上界が第二の魔界と化してしまうだろうしな」

天界神は、魔法陣を完成させ玉座の後ろへ置くと、ルシファーへ赤ん坊を渡した。

「お前より、サタナエルよりも上位の存在として丁重に扱え」

ルシファーは黙って赤子を受け取った。

「……御意に」

眠りにつく赤ん坊と、天界神を前に、ルシファーは俯く他に何もできずにいた。

それから、一七年の時が過ぎた。

ルシファーは、天界の太陽に照らされ、動物達と共に時を過ごす人間を、木の木陰から見ていた。

無邪気に動物を追いかける人間と、木に止まる鳥類に交じり、花を愛でる人間__

その光景は、牧歌的で、楽園と呼ぶに相応しかった。

(今日も問題は起こしていないか、申し訳ないが、あれを能力で劣る我々以上の存在と認められんな)

(そのまま、無垢なままいてほしいものだが)

ルシファーは木陰から離れ、人間の居る方へ向かう。

動物達を追っていた方の人間は、向かってくるルシファーの存在に気付いた。

「あ、ルシファーだぁ」

人間は手を振り、無邪気な笑みを浮かべる。

ルシファーは笑む人間に、一礼した。

「ご機嫌麗しゅう……」

「難しい言葉は使わなくていいよぉ、俺がわかんないから!」

笑いながらルシファーの頭を撫でる人間に、ルシファーは胸をなでおろす。

「申し訳ございません、私めの配慮が欠けておりました」

そう返すと、笑いながら人間はルシファーの頭を指さす。

「ほらまたわかり辛い事言ったあ! ルシファーは面白いや!」

「……楽しそうで何よりです、アダム様」

その時だった。

「「ふざけんな!!!!!」」

轟音と共に、草原の大地が割れた。

アダムの姿は、突如砂煙に隠されルシファーの前から消える。

「その声……サタナエル!君か!」

硝煙に包まれた、大穴の空いた大地からサタナエルは姿を現す。

サタナエルの腕には、アダムが抱えられていた。

「なんのつもりだ!? 神に歯向かう気か!!」

ルシファーは、アダムを抱えるサタナエルに声を荒げさせる。

「るせぇ!! 俺様は納得いかねぇんだよ!!」

サタナエルは、口から稲妻を漏らしながら答える。

「何にだ!!」

ルシファーは全速力で飛び掛かり、サタナエルからアダムを奪おうとした瞬間、サタナエルは空中へと飛び、すかさずルシファーはそれを追い、掴もうとする。

しかし、サタナエルはルシファーの速度を上回り、行動の悉くを交わした。

「全部だよ!! 全部!!」

怒鳴るサタナエルに抱かれたアダムは反応する。

「? ぜんぶ? 何が不満なの? 教えてサタナエル」

純粋な、アダムの言葉にサタナエルは更に激怒した。

「手前にも! ルシファーにも! うんざりなんだよォ!!」

サタナエルは地面の様子が見えなくなったところでアダムから手を放す。

「! 危ない!!」

ルシファーが落ちゆくアダムを抱えようとすると、サタナエルの蹴りがルシファーの頭に直撃した。

「貴様のその甘さも! 神からの待遇も気に食わねぇ!! 何より__ッッ!!」

蹴りの連打が続き、一撃一撃が加速していく。

「人間とかいう存在に味方する周囲の神々と無能な天使ども!! お前もそうだぜ!!」

ルシファーの体が力なく落下していく。

それを好機と見てサタナエルは腕に魔力をこめはじめた。

「へっへっへ……こっそり練習していた魔術、お前に喰らわせてやらあ!!」

黒い稲妻が、サタナエルの腕に宿りだす。

「名前は……そうだな、コレが相応しい。……雷に打たれて、人間とルシファーは事故死ってことにしてやるよ! 消えやがれ!」

腕を突き出し、魔術を開放する__

暴虐の雷プロト・カルネージ!!!」

放たれた雷がルシファーを襲う。

しかし、ルシファーは瞬時に杖を召喚し、防御魔術を展開する。

それによって、雷は吸収されていった。

「何!?」

驚愕するサタナエル。

「肉体を鍛えているのは結構な事だが、魔術への理解に関しては私の方が上手だな」

ルシファーは加速し、アダムを抱きかかえる。

そして、ふわりと地面に降り立ちアダムを腕から下ろした。

「さて……サタナエル、おいたが過ぎたんではないか」

天から見下ろすサタナエルへ、嘲笑を含めて送る。

炎の弾丸を。

灼熱の弾丸はサタナエルの体へ一発残らず撃ち込まれる。

「ぐああっ!! 野郎……!!」

サタナエルは弾丸を受けながら、直進する。

「その澄ました顔も、今日で終わりだ!!」

サタナエルは炎を左腕で受け、まとわせる。

左腕の皮膚は、既に焼けただれていた。

「無理をするな! サタナエル!」

「うるせぇぇぇぇ!!!」

流星の如く、サタナエルは炎を纏った左腕を突き出していた。

「……くっ、話は後で聞くぞ!」

ルシファーは杖を振るい、猛吹雪を繰り出した。

たちまち、炎は鎮火されサタナエルの体は凍り付いていった。

「ぐあああっ……」

サタナエルが地面に着くころには、身体は氷でできた彫刻の様に固まっていた。

「ふぅ、こんなところか」

「すごおい」

アダムはルシファーに拍手を送る。

一方でルシファーは、サタナエルの言っていた事が気がかりになり、顎をさすっていた。

「……急に、お前が何故」

人間の誕生と、成熟。

それは、後に起こる大悲劇への布石だった。

サタナエルとの争いは、ルシファーにとって大悲劇への序章に過ぎないと誰が知るだろうか。

明星は、高く、なお高く在り___________与えられた時間は、ただ堕ちるのを待つばかりである。

嵐の前の、最後の輝きであった。

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