ヘルラジオ

 どこかで、聞いたことがあるだろう?

 この世界には、常識では考えられないものが、ひそかに存在しているって。

 これは、僕がそんなものに触れた時の話。

 改めて、不思議なものが存在したのだなと思わざるを得ないものだ。

 僕がそいつに触れたのは、海外へ旅行に行った時の事。

 そこがどこかという事は、実はよく覚えていない。

 ただ、飛行機を使っていったということだけは覚えている。

 実に自然豊かで、それでいて街並みもそれなりに発展しており、まさしく日本から見た海外特有の、陽気さに包まれるような風景だった。

 案内人ガイドのジョージさん自身も愉快な人で、予約したホテルまでの道中はずっとおしゃべりとジョークの飛ばしあい。

 ジョージさんの外見は、鼻が高くて小麦色に焼けた、麦わら帽子のよく似合う若い人だったのをよく覚えている。

 笑った時の白い歯なんて、ドラマにでも出てきそうだった。

 ジョージさんと一緒に車の行き交う交差点を、談笑しつつ歩いている時、ジョージさんは冗談のつもりか奇妙な事を言ったのだ。

「そうそう、この国には有名な都市伝説があってね。誰が言い始めたか、“HELLRADIOヘルラジオ”というんだけどさ」

「ヘルラジオ、地獄のラジオというわけだ。ならなんだい? 独裁者のカラオケでも流されてるのかい?」

 笑って僕が返すと、ジョージさんは腹を抑えて引き笑いをしていた。

「そいつはそいつで怖いな、おっかない。けど、これはそんな――なんていうか、あー、理屈でどうもわけわかんない話でさ」

「深夜2時、ベッドでラジオを付けていると、ノイズ交じりになって地獄からの局と繋がって――ラジオを付けている人を呼ぶんだとさ、そして、呼ばれた奴のベッドに死神が入り込むんだとよ」

「へぇ、じゃあ僕は寝落ちする時ラジオをつけるからきっと、死神と添い寝してるかもね」

 そんなことを言い合って、二人の笑いが、摩天楼群に広がっていく。

 ノリのいいガイドに当たって本当に良かった、と心底から想った。

 そして、僕たちはホテルに着き、チェックインを済ませる。

 ホテルの部屋にいくと、僕は真っ先に純白のベッドに飛び込んでいった。

 ふかふかとした、柔らかくて優しく身を包み込むベッドの感触は、歩き疲れた僕の睡魔を呼び起こさせるのに充分。

 隣に置かれた時計を見れば、午後3時を示していた。

 僕は、深い眠りにつくことにした――――。

 眼が覚めると、ホテルの部屋の前が何やら騒がしい。

 扉を開けて、廊下を見渡すと、バリケードテープが張り巡らされていた。

 警官も数人ほど並んでおり、何事かと訊ねてみたら――――。

 ガイドのジョージさんが、何者かによって殺害された、というのだ。

 ラジオをつけっぱなしの状態で、眠っているところを、首を刃物で切り裂かれたらしい。

 暴れた形跡を示す、ひび割れた時計は、午前2時10分を刺していた、という――――。

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